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映画散歩

シネマでしゃべろ 十人十色、それぞれのイチオシは?

なんていい映画なんだろう「プレシャス」

 悲惨な話のはずなのに、どうしてこんなに悲壮感がないのだろう。かといって、不幸を明るく笑い飛ばす映画でもないし、観(み)終わったあとたくさんの勇気や元気を与えられる映画でもない。毎日を、自分の運命を、粛々と歩み続ける覚悟を与えられる、そんな感じの映画でした。

 1987年の、ニューヨーク・ハーレムが舞台
 16歳のプレシャスは、黒人で、巨漢で、不細工で、同じく巨漢で不細工なお母さんと二人暮らしをしています。生活保護をあてにしている母親はプレシャスにひどい言葉を吐いてばかり。「学校なんて行くのは無駄。お前は能無しだ。」
 プレシャスは行方をくらましている父親から性的虐待を受けていて、父親の子どもを妊娠しています。これは彼女にとって2度目の妊娠。1人目も、父親の子でした。
 学校ではいじめられてばかり。その学校も、妊娠が知れて退学処分になってしまいます。フリースクールに送られ、そこではじめて、自分と同じような境遇で、自分と同じように文盲の友人たちと出会いました。
 アフリカンアメリカン女性の先生は、読み書きはもちろん、自分や他人を尊重することを生徒たちに教えます。プレシャスはしだいに先生を信頼するようになり、勉強も楽しくなってきたのですが……2人目の子どもが生まれ、さらなる悲劇が待ち受けているのでした。

 アメリカでは18館での公開でスタートしたのに、映画「プレシャス」は全世界で164の映画賞にノミネートされました。アカデミー賞では、主要6部門にノミネートされた結果、助演女優賞と脚色賞を受賞しています。

 残忍な母親を演じてオスカーを受賞したのは、モニーク。アメリカでは有名なコメディエンヌで、大柄な女性のビューティーコンテスト番組のMCとして、ケーブルテレビ史上最高の視聴率を記録したこともある方だそうです。また、「Skinny Woman are Evil」(痩せるなんてダメ!)という自伝はベストセラーになっているそう。このモニークさんの演技が、凶暴で、切なくて、忘れられない。恐ろしい目で感情を吐露するシーンでは、人間の心から弱さや競争心を消しさることはできないことを教えてくれます。

 マライヤ・キャリーレニー・クラヴィッツが、カメオ出演ではなく、大きな役で(それもマライヤは髪を黒く染めて、ノーメークで!)出演していることでも話題になっている作品ですが、やはりなんといっても、注目すべきは、主演が無名で演技経験のない女の子だということでしょう。

 プレシャス役を演じたのは、ブルックリンで生まれ、ハーレムで暮らしていたガボレイ・シディベ。ハリウッドのエージェントに所属している女優ではプレシャスのリアリティーが出せないと困っていたところ、撮影直前にガボレイが現れたそうです。あまり表情を変えない演技は、苦しみや悲しみを表現するすべを持たない、感じることすらできなくなってしまっているようなプレシャスにぴったりでした。

 邦画が洋画の興行収入を超え、邦画ブームなんて言われていますが、無名な主演女優でもこんなに力強い作品が作れてしまうハリウッドって、やっぱりすごいなあ……と、ため息交じりに実感してしまいました。

2010年03月26日
プレシャス
乾貴美子
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