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映画散歩

シネマでしゃべろ 十人十色、それぞれのイチオシは?

過去を忘れないために ~君の涙、ドナウに流れ ハンガリー1956

 試写の帰りに雑誌をパラパラとめくっていると、懐かしい顔が出ていた。ミハイル・ゴルバチョフだ。1985年にソ連共産党書記長に就任以来、国内でペレストロイカとグラスノスチを進める一方、外交面では冷戦の終結に貢献。その業績が称えられ、1990年にはノーベル平和賞を受賞。「ゴルビー」の愛称で親しまれた彼だが、この秋、ルイ・ヴィトンの新しい広告の「顔」として起用された。車の後部座席に乗り、少し物憂い気な表情で外も見つめる彼。その視線の先にはベルリンの壁が。彼の傍らには、モノグラムのボストンバックが置かれている。

 くしくも、この日に見た映画は1956年のハンガリー動乱を題材にした「君の涙、ドナウに流れ」だった。ソ連の衛星国として共産主義政権下のハンガリー。そこで自由を求めるために立ち上がった民衆に、ソ連は軍事介入を行い、流血の惨事を引きおこす。作品中で次々と銃弾に倒れていく学生、戦車になぎ倒されていく民衆のシーンがフラッシュバックでよみがえってきた。彼らの早すぎた「革命」に、やるせない思いがこみ上げてくる。

 本作が興味深いのは、この動乱と同じ年におきたもう一つの史実を絡めた点だ。
1956年の動乱直後に開幕したメルボルン・オリンピックで、ハンガリーの水球チームは、準決勝でソ連チームと対戦。その緊迫した雰囲気の中での激闘は「メルボルンの流血線」としてオリンピック史には刻まれている。この1956年におきた二つの歴史的出来事をつなぐため、女子学生ヴィキと水球選手カルチの二人をメインキャラクターとして登場させる。そして首都ブダペストを舞台に、この架空の若いカップルの姿を通じて、歴史に翻弄(ほんろう)された人々の悲劇を語る。戦争、紛争等を描く際に、引き裂かれた恋人達の悲恋を重ねるのは常套(じょうとう)手段。往々にしてメロドラマ調になる危険がある。しかし、ハンガリーの若手女性監督クリスティナ・ゴダはそのあたりのバランス感覚に優れている。

 それまで政治には無関心、水球と女の子を追いまわすことしか興味のなかったカルチ。しかしヴィキとの出会いにより、彼の人生は大きく変わっていく。彼女と共に自由のためにハンガリー独立学生連盟の活動に加わるか?しかし、その場合ナショナルチームの一員としてオリンピックに参加する夢は捨てなければならない。カルチ役のイヴァーン・フェニェーは、一人の平凡な若者が、迷いそして悩みながらも徐々に革命に身を投じていく姿を好演。水球のエースを演じるべく週4回のトレーニングを積み、鍛え上げられた体で撮影に挑んでいる。さらに終盤の見せ場、メルボルン・オリンピックでの水球シーンをリアルなものにするべく、シドニー、アテネ・オリンピックで連覇した世界最強のハンガリー代表チーム選手も本作品に出演。ダイナミックな試合運びが展開される。
 闘争で亡くなった人々の誇り高き志を、いつまでも忘れまい。そんな作り手の強い思いが凝縮された本作品。 最後、エンドロールと共に流れる次の一節が深く胸に残る。

自由の国に生まれた者には理解も及ぶまい
だが私たちは何度でも繰り返し噛みしめる
自由がすべてに勝る贈り物であることを

※晩秋、〔新館〕シネカノン有楽町2丁目ほか全国順次ロードショー

2007年09月03日
君の涙、ドナウに流れ ハンガリー1956
近藤深雪
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