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映画散歩

シネマでしゃべろ 十人十色、それぞれのイチオシは?

身勝手な大衆とは ~クイーン

あれから「もう10年」と思うか、「まだ10年」と感じるか。1997年8月、英国のダイアナ元皇太子妃がパリで交通事故死した。恋人と一緒にいたところをパパラッチたちに追いかけられ、トンネルの壁に激突した。一時は「現代のシンデレラ」と持てはやされた女性の、あまりに突然の、むごく、痛ましい最期だった。

「世界中が泣いたその日、たった一人涙を見せなかった人いた」

映画「クイーン」のコピーは、こう謳う。

涙をみせなかった人――エリザベス女王は、そのとき事故とどう向き合ったのか、その知られざる内幕を描いたのが、この作品だ・・・などと書くと、それこそ「パパラッチ的のぞき見映画」のように聞こえてしまうかもしれないが、もちろん、そんな安っぽい作品であるわけがない。

なにせ、エリザベス女王を演じたヘレン・ミレンは、この演技で、米英それぞれのアカデミー賞をはじめ、あまたの主演女優賞を獲得しているのである。「しっかりした作品」であるに決まっている。

でも、世界中が覚えているあの大ニュースを、それも「英国女王」という特異な存在の人物を主人公に、果たしてどんな映画に仕立てのか。単なるエンタテイメントを見にいくのとはちょっと違うワクワク感も感じさせる作品だ。

物語――といって良いのかどうか悩むところだが――は、ダイアナが亡くなる数カ月前、1997年5月、英国総選挙の投票日から始まる。18年間政権を握り続けた保守党が地崩れ的大敗を喫し、労働党が勝利。43歳の党首、トニー・ブレアが「20世紀最年少の英国首相」に就くことになる。しかし、世間の熱気はバッキンガム宮殿には及ばない。女王エリザベスは自身の肖像画のモデルを務めながら、つぶやく。「一度でいいから投票というものをしてみたい」

女王と、首相と。この二人の対比、葛藤を軸に、映画は展開されていく。

今ではすっかり「ブッシュの子分」といった役回りのブレアだが、この作品では、政治の方向性をググッと改めていく若き改革派といった面持ちで描かれる。総選挙後、首相の承認を受ける段階では、女王にハナであしらわれるような位置関係にあったのが、「突然の事故」をきっかけに、発言力を増していく。

 ブレアに扮するのはマイケル・シーン。実在する政治家役などというのは、俳優にとってはキワモノ・イロモノとも言えそうだが、彼はテレビドラマでもブレア役を務めたことがあるそうで、本作でも、童顔の首相をのびやかに演じている。母親ほどに年が離れ、境遇も考え方もまるで異なる女王にぶつかっていく姿が清々しくもある。

元妃の悲報は夜中に飛び込んでくる。女王も、避暑地であるスコットランドの城で就寝中、起こされる。夫君のエディンバラ公があわててテレビのスイッチを入れると、CNNが速報している。ダイアナの元夫・チャールズ皇太子も起きてきて、「王室機ですぐパリに飛ぶ」と言いだす。と、女王が叱りつける。「そんなことをしたら、また税金を無駄遣いしたと批判されます」「ダイアナはもはや民間人なのですっ」

身内同士の歯に衣着せないセリフも飛び出し、まるで橋田壽賀子劇場のようなやり取りが続く。ロイヤルファミリーの寝室やら、茶の間(という表現も妥当ではないかもしれないが)やらが映し出される。一体どこまでが事実で、どこから創作なのか。見ていて思わず唸りたくなる。

「綿密に調査した」と、脚本家のピーター・モーガン。何より「映画だ」と割り切って考えるとしても、日本の「開かれた皇室」では、とてもこんな表現は出来ないだろう。彼我の違いを感じるだけでも一見の価値はある。

事故は、ダウニング街のブレアも、ベッドルームの電話で知ることとなる。驚いて飛び起きつつ、誕生ほやほやの首相が考えたのは、国民にどう語るか。さっそく談話を準備させ、朝一番にテレビカメラの前に。

「人民のプリンセス」――。王室が「もはや民間人」との態度を取るのとは対照的に、元妃のことをこう称し、その短すぎた生涯を悼んだ。

うなずき、涙する視聴者。「プリンセス」を失った「人民」は、新首相の支持率を押し上げる一方、だんまりを決め込む王室に、怒りの矛先を向けていく。元妃の遺体がロンドンに帰ってきても、女王たちはスコットランドの城にとどまったままでいる。それに抗議するように、人々は花束を持ち寄り、バッキンガム宮殿の前を埋めていった。

 大衆――。ダイアナに熱狂し、パパラッチに追い回させたのも、言ってみれば大衆だ。パパラッチの振る舞いを怒り、悲嘆にくれたのも大衆だ。いつも身勝手で、うつろいやすい。そういうものだ

そんな世俗の声に耳を貸すことはない。むしろ、一線を画すことこそ自分に課せられた生き方だ。在位50年を超す女王は、そう信じているのかもしれない。

しかし、大衆のパワーはメディアによって増幅され、ときに制御不能にもなる。民衆に選ばれたブレアには、その強さ、恐ろしさが分かる。だから、彼は女王に進言する。「早くロンドンに戻り、テレビに出て、人々に語りかけてください」

大衆という名の怪物と、どう向き合うのか。映画は、当時の映像やテレビ画像を織り込みながら、事故の一週間後に営まれたダイアナの葬儀に向けて緊張感を高めていく。

今という時代に、前時代的な「クイーン」として生きる、生きるしかない女性の、自負と、孤独と、凛々しさが、スクリーンから立ち上がってくる。といって、文芸作品然とした気取りなどはなく、動的に、テンポよく進んでいく。はじめに抱いたワクワク感は、裏切られることなく、鑑賞後の爽快感に変わっていく。

子豚物語「ベイブ」の農夫や「LAコンフィデンシャル」の悪徳警察官に扮したジェイムズ・クロムウェルがエディンバラ公を演じているのをはじめ、チャールズ皇太子、シェリー・ブレアら実在の人物を、芸達者たちが生き生きと表現して作品に落ち着きを与えている。

最後にひとこと。

エリザベスがスコットランドの別荘にこもっている間に、一頭のシカと出合う。この映画のテーマを象徴するシーンと言えると思う。シカとごらん頂きたい(失礼! シカらないで下さい)。

★4月14日よりシャンテシネにて公開(4月21日より全国拡大公開)

どらく編集部・M2

2007年03月20日
どらく編集部映画担当
クイーン
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